新しビジネスモデルを探している。最近ネットでは私の好みを先回した情報ばかり並べられ、こういうときは面白くない。そんなときは街の本屋に行くことにしている。ありがたいことに、気になる本を見つけることができた。黄色くて分厚い本、帯に「WIRED創刊編集長による最新刊!」とある。1996年にアメリカの本屋で、コンピュータ月刊誌の棚にあったWIREDを私は見た。WIREDはその棚の中で異彩を放っていた。デザイン、ロゴ、色使い、雑誌の中身は新しいことが書かれているに違いないと思った。次の日も本屋に行くと、黄色い分厚い本がどうしても目に入って来る。これは買うしかなかった。パソコンからインターネット、そしてクラウド、AI(人工知能)への流れが、わかりやすく、著者のケヴィン・ケリー氏の経験談もあり、また、テッド・ネルソン氏とのエピソードなどもあり、そうだ、そうなんだとうなづきなら楽しく読めた。読み終えてみて、本はマーカーペンだらけに、そして、この本から私は元気と勇気をもらった。以下に、私がマーカーを引いたところを引用して紹介し、確実に来る未来に一緒にわくわくしてみたいと思った。
まずは私が一番面白いと思ったフレーズから紹介
『テッククランチ誌の記者が最近、「世界最大のタクシー会社ウーバーは車を1台も持っていない。フェイスブックは世界で最も人気のあるメディアの所有者だが、コンテンツは一つも作っていない。アリババは最も市場価格の高い小売業だが、倉庫は持っていない。エアビーアンドビーは世界最大の宿泊施設提供会社だが、不動産は何も持っていない。なかなか興味深いことが起きている」と書いていた。
実際にはデジタルメディアにも同じような現象が起きている。ネットフリックスは世界最大の映像提供会社だが、映画を所有することなく観客にそれを見せている。スポティファイは最大の音楽ストリーミング会社だが、音楽は何も所有していないのに、どんな曲でも聴かせてくれる。アマゾンのキンドル・アンリミテッドは80万冊の本が読み放題だが、本は所有していないし、プレイステーション・ナウはゲームを購入しなくても遊べる。利用するものを所有する、ということが年々少なくなっていく。 所有することは昔ほど重要ではなくなっている。その一方でアクセスすることは、かつてないほど重要になってきている。』
クラウドについての引用
『現在あなたが使っているウェブやスマートフォンの機能のほとんどは、クラウド・コンピューティングによるものだ。目には見えなくても、クラウドがわれわれのデジタル生活を動かしている。
クラウドはいまのところ、ほとんどが商業的なものだ。グーグルやフェイスブックは社内で大規模なクラウドを運営している。われわれはいつもクラウドへと帰っていくが、それは自分自身より信頼できるからだ。
クラウドとはまさに「バックアップ」なのだ。それはわれわれの人生のバックアップでもある。』
AIについての引用
『私の予想では、2026年までにグーグルの主力プロダクトは検索ではなくAIになるはずだ。
このクラウドベースのAIは、われわれの生活に深く関わるものになっていくだろう。
グーグルのクラウドAIは視覚的知能を急速に成長させている。私のような一般人がアップした何十億枚ものスナップ写真から、そこに写っているものをすべて認識して覚えている能力は、単純に驚愕するしかない。』
ウェブについての引用
『ウェブは1980年代に流行ったサイバースペースのように出向くべき場所というより、あなたの存在そのものに近いものになる。2050年にはわれわれにとってウェブは、常時存在している会話の一種のようなものになるだろう。
あなたが朝起きた瞬間から、ウェブはあなたの意図を読み取ろうとする。いつもの予定が記録されているので、ウェブはあらかじめ、あなたがある行動を起こすのに先駆けて、尋ねる前からその答えを送って来る。会議の始まる前には必要なファイルを送ってきてくれるし、友人とどこに昼食に行ったらいいのか提言するために、その日の天気やあなたのいる場所、今週食べたもの、この前その友人と食べたものなど、その他あなたが考えそうなさまざまな要素を考慮してくれる。ウェブと会話もできる。スマートフォンに溜めた友人の写真をめくっていくのではなく、ウェブに友人のことを尋ねる。ウェブはあなたが見たい写真を予想し、反応を観察しながら、もっと多くの写真や違う友人の写真を見せたり、次の会合が始まりそうだとか、メールを2通読んだ方がいいと知らせたりしてくれる。』
先回りされていく未来
『近未来の私の1日は、いつもこんな感じで始まる──台所にトースターより小さな錠剤製造マシンがある。それには10ほどの小さな瓶が装備されていて、事前に処方された薬やサプリが粉状になって入っている。毎日このマシンがそれらを正しい割合で調合し、パーソナライズされた錠剤を一つ(あるいは二つ)作ってくれるのでそれを飲む。日中には私の体の各器官がウェアラブル・センサーでトラッキングされることで薬の効果が1時間ごとに計測され、クラウドに送られて分析される。翌日の薬の量は過去24時間のデータから調整されて、パーソナライズされた新しい錠剤が作られる。これが毎日続く。
コンピューターはこれまでずっと、われわれの方へと歩み寄ってきた。最初のコンピューターは遠くにある空調の効いた地下室にある存在で、次には近くの小部屋にやってきて、そしてわれわれの机にすり寄ってその上に鎮座し、そして膝の上へと飛び乗り、最近になってポケットの中に入り込んだ。明らかに次の段階では、コンピューターはわれわれの皮膚の上に乗る。われわれはそれをウェアラブルと呼んでいる。』
2002年、イラストレータの故・鴨沢祐仁氏にコンピュータのイラストを描いてもらったことがあった。出来上がってきたイラストにはコンピュータではなくロボットが描かれていた。私は「コンピュータはどこにあるのですか?」と聞くと、鴨沢さんは「このロボットがコンピュータです」と言ったのを思い出した。(文責:中島正雄)

鴨沢祐仁 イラスト 200306
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