コンピュータはプログラミングなのだ(3)

最近のテレビ番組がつまらなくなったせいか、iPadやスマホのコンテンツが面白くなったのか、私は映画を見るようなった。

私のお気に入りは、舞台がニューヨークでハッピーエンドで終わるストーリー。つまりはアメリカのラブコメディが好き。メグ・ライアン主演の映画「ニューヨークの恋人」は、1876年のニューヨークからはじまる。貴族でありエレベーターの発明家でもあったレオポルド公爵は、ブルックリン橋で挙動不審な怪しい男性を追いかけていくうちに、現代のニューヨークへとタイムスリップしてしまう。後のオーチス社という設定だ。

彼がタイムスリップして現代に来た瞬間に、オーチス社のエレベーターが止まり、街中が混乱するという事態が起きた。そのシーンを思い出し、もし世界中のコンピュータが止まったらどうなるだろうかと、ふと思った。

コンピュータを発明した人を調べてみると、意外にもイギリスの数学者、アラン・チューリングに行き当たった。彼がいなければ、今日の「コンピュータ」は存在していなかったかもしれないという説がある。チューリングは、コンピュータの概念を初めて理論化し、第二次世界対戦のとき、ドイツの世界最強のエニグマの暗号解読により対独戦争を勝利に導いた。

「ITといえばアメリカ」というイメージだけど、コンピュータの基礎は実はイギリスでつくられていた。

終戦後のチューリングの夢は、小さいときに読んだ脳と心の関係を「電子脳」(Electronic Brain)と呼ばれるマシンで実現することだった。まさにコンピュータだ。そして国立物理学研究所やマンチェスター大学で、電子式のデジタルコンピュータの開発にいそしむことになる。チューリングの、その短くも激動の人生が映画になっていた。

『イミテーション・ゲーム』というタイトルで、日本では2015年3月公開された。私はそんなことは知らずに「コンピュータはプログラミングなのだ」というタイトルで、文章を書いていた。そんなとき突然、わが社に元SFCの大岩教授が訪ねて来た。

大岩教授は、元慶應義塾大学・環境情報学部教授、現在は、お茶の水女子大学にいる。大岩教授との縁は1998年4月10日、私が起業することを決め、社名はホームページのリンクの概念を考えたテッド・ネルソン氏の論文のタイトル「コンピュータリブ」にしたいと思っていた。

社名にする前に一言、おうかがいを立ててからにしようと、私はテッド氏を探していた。彼が日本にいることは分かっていた。
当時はニフティサーブのパソコン通信ブームだった。ダメモトでフォーラムで問いかけてみると、関西にいる勉強仲間の太田秀和さんが、SFC(慶應大学湘南藤沢キャンパス)の大岩教授のところにいることをつきとめてくれた。

太田さんと大岩教授は、教授が開発した日本語入力ソフト「タッチ16」のユーザーと開発者の仲だった。それからはスムーズにテッド氏と会うことができ、社名使用の許可をもらったというエピソードがある。

大岩教授の近年の研究のテーマは「識字教育としてのプログラミング」。識字教育とは英語でいうとリテラシーで、プログラムを読み書きし理解できる能力を身につけさせることをいう。大岩教授は「日本語の語順はプログラミング向きなのだ」といっている。

そこで、アラン・ケイが開発したプログラミング環境「Squeak」に教授が開発した日本語プログラミング環境「言霊(ことだま)」を搭載して、馴染みやすいプログラミング環境を作り、SFCの大学生に教え研究成果が発表されている。

コンピュータを動かすには、プログラムのコードを書かなければならない。
思い通りに動かないコンピュータを、直せるものなら自分で直したいと誰もが思ったことだろう。普通の人がコードを見ても分からないプログラミング言語「フォートラン」を作ったのは米IBMの科学者ジョン・バッカスで、1954年のことだった。

大岩教授は「プログラミングで重要なのは、コードを見ただけで意味が読み取れることだ」「誰でも他人が作ったプログラムに手を加え改良することができることなのだ」と言う。

米国のオバマ大統領は「スマホで遊ぶだけではなく、プログラミングしてみよう!」というメッセージを発信している。英国では学校でプログラミングを教えることが必須になったばかり。つまり、プログラミング教育の世界的ブームが今起きはじめている。

小学生にプログラミングを教えるには、まだまだ壁があるようだ。重要なのは、誰がプログラミングを教えるかだ。なんせ学校の先生はプログラムを作ったことが無いからだ。コンピュータがはじき出す答えは一つでも、やり方は何通りもある。

プログラムを必要とする問題は、暗記では解けないのだ。そこには、問題解決できる能力とセンスと思いやりと夢が必要だと思う。大岩教授が発見した日本の国語力がプログラミングのキーワードになるかもしれない。日本にはKJ法やマンダラチャートなど実際にビジネスに使える問題解決手段もある。そのことに気づいている人たちも動き出している。

車の自動運転の開発が、発表から10年が経ち実を結びそうだ。コンピュータを動かすことができる人が先か、それとも、コンピュータが人間を理解して自動的動き出す方が先か、どうなるか分かるのもそう遠くない話である。

今の小学生が社会に出始める2030年ころは、今のようなコードを書くプログラミングは、まだあるのだろうか。いずれにしても、コンピュータを動かせる人間を育てなければならない。あの後、教授は、ニコニコしながら渋谷に映画を見に行くと言って事務所を出て行った。(文責:中島正雄)

参考

President Obama asks America to learn computer science

Mark Zuckerberg on helping others learn to code