ホットな見込み客

マーケティングという言葉ほど怪しげな言葉はないと思っている。インターネットが商売に使われるようになってから、利いた風な横文字を組み合わせて並べ何とかマーケティングという手法に翻弄されているような気がする。

企業はインターネットが商売に使えることがわかると、ホームページを開設してモノを売ったり、新しいお客さまの開拓にと引き合いを稼いだりした。黙っていてもホームページからお客さまがやって来るという魔法のようなことは、今はもうない。あれから20年、かつての花形だったネット通販サイトは、生き残りをかけ必死で商売をしている。ネット通販サイトで生き残っているところは、言い換えると最先端の売り方をしているといえる。そんな店の店長に話しを聞いてみると、やはり魔法の話はなく、あるのは昔と変わらないコツコツと小さな積み重ねの地道なやり方だった。とはいえインターネットには、インターネット用の売り方があるはずだ。インターネットから20年後のインターネット用の売り方、それはマーケティング・オートメーション(MA)である。

インターネットで何かを買った経験があるでしょうか。世界最大のネット通販サイトは「Amazon(アマゾン)」。アマゾンは最初は書店だったけれど、今では何でも売っている。理科系出身の創業者のジェフ・ベゾス氏は1994年ごろインターネットの可能性に気づき、ネット通販サイトを立ち上げだ。ベゾス氏がどうして商材に「本」を選んだのかは、本はよく知られた製品であること、市場が大きいこと、本のデータベースが簡単に作れることにあった。べゾス氏は社名をアルファベットの「A」から始まる名前にしたかった。幅広い商品を扱うという意味を込めて川幅の広いアマゾン川を思いついた。アマゾンのロゴマークはAからZに向かって矢印が伸びている。これにはあらゆる商品を取り扱っていることを意味している。日本での昨今のアマゾンと宅急便の問題は、ベゾス氏の創業時の思惑通りネットで買い物をする人が増えたことを意味している。

アマゾンで駅ビルや百貨店と同じようにウィンドウショッピングした経験はあるだろうか。例えばカバンを買おうとして、いろんなショップを見て探す。歩くのではなく、手のひらの中のスマートフォンで探すから疲れることなくウィンドウショッピングができる。気にいったカバンがあって、買い物カゴに入れたけど買わなかった。

今度は同じスマートフォンでFacebookのタイムラインを見る。すると、さっき買おうとしたカバンの広告が表示された。えぇ、何で私が欲しいカバンを知っているの?しばらくして、メールでカバンのセールの案内が届く。私の行動を誰かに見られているようで気味が悪いと思ったことはないだろうか。インターネットを使ったこの売り方をマーケティング・オートメーションという。見込み客一人一人に特化した売り方を自動的に行うツールである。

その仕組は、私がアマゾンのホームページを見たときにアマゾンのクッキーという小さなファイルが私が使っているブラウザソフトに埋め込まれる。私はアマゾンで買い物をしたことがあるので、アマゾンはこのクッキーと私を紐づけ、私がどんな商品のホームページを見ていたのか行動履歴をデータベースに集める。クッキーと個人情報が紐付いているデータをプロスペクトという。プロスペクトはホットな見込み客のことである。プロスペクトの件数はアメリカの企業の評価基準の一つであるという。

私も知らないうちにMAされている。私はいつものようにFacebookのタイムラインをみていた。そこ表示されたシステムの広告を見てクリックして詳細が載っているホームページに進む。このときにクッキーが埋め込まれる。何日かすると先日見たシステムの無料セミナーと資料ダウンロードの案内メールが届く。クッキーは私がこのメールを開封したかどうかをシステム会社のデータベースに知らせる。クッキーが曲者だ。メールを開封したとき、そのシステム会社から電話がかかってきた。クッキーが私が案内メールを開封したことをプロスペクトのデータベースに送り紐づかせた。なんでピンポイントにタイミングよく電話がかかってきたのだろうと思ったが、知りたい情報だったので嫌な気はしなかった。このシステムを買ってしまいそうである。

マネジメントゲーム開発者の西順一郎先生は商売を始めるなら「先ずマイツールで名簿を作らないと」「そして、新聞を送るんだよ」とアドバイスをした。マイツールというのは1980年代にリコーが発売したデータベースソフトのこと。そして、先生の言う名簿というのは「見込み客」のことだということに20年経って気づいた。商売を始めるなら、先ず見込み客の名簿をデータベースで作れということなのだ。 (文責:中島正雄)

イラスト:吉田稔美