人間くさいコミュニケーション

起業して5年が経ったころの年末に、勉強仲間のお節介な友だちが「企業理念を作った方がいいよ」と会社に押し掛けてきた。彼のあまりの勢いに押し切られ、私たちは正月明けでまだお客さまが動き出さない静かなときを狙って、経営理念を作る作業をすることにした。

作業は彼のリードで始まった。自分の心の中にある仕事に対する思いや夢を、片っ端から付箋(ポストイット)に書き出してホワイトボードに貼っていく。ある程度付箋が貼り出されると、同じような意味合いの付箋を集めてグループにまとめ、そのグループにタイトルをつける。自分の心の中で思っているうちは妄想で、言葉に書き出して他人に伝えられるようになってはじめて自分の思いは現実に向かっていくのだと諭されながら、その作業を2日かけて、何回も何回も繰り返しやった。

付箋は増えたり減ったりした。どうどうめぐりのやりと取りに「こんな作業に何の意味があるのか」と途中で喧嘩になりそうなこともあった。3日目、1月6日、彼の辛抱強いリードのおかげで、私の心の中から捻り出したフレーズがつなぎ合わさり、なんとか経営理念が出来上がった。

出来上がったばかりの文章は、自分の言葉ではないような気がしてちょっと恥ずかしい感じもしたが、今では人前で自信を持って言うことが出来る。仕事でつまづいたり、上手く行かなかったことがあると、この経営理念に帰り、フレーズを思い出し心を整えることが出来るようにもなっている。

中でも気に入っているのは「人間くさい」というフレーズ。よくもこんな言葉が出たと思う。コンピュータリブ社は社名からもわかるように、業種でいうと情報サービス業でいわゆるIT業界、つまるところデジタルである。デジタルときくと、なんだか得体の知れない冷たい感じがするが、日々の仕事は全くその逆で極めてアナログだと私は思っている。

インターネットやパソコンなどのITは、もはや欠かすことができない仕事の道具だ。創業以来私たちは、お客さまが仕事でインターネットを使うとき、電子メールやホームページ、パソコンの操作などで困っていることがないか問題を聞き出し、それを解決したり作業の代行で、今日までやって来た。私たちのお客さまは生身の人間で、お客さまと直接話すことができる。取扱商品はIT関係だけれど、やっていることは間違いなく人間関係で成り立っている。

私は「人間くさい」というフレーズには”お節介な人”をイメージしている。例えば、用もないのに来たり、いつも自分のことより他人のことを考えていたり、頼まれないのに先回りしてやって失敗したりする人。”余計なお世話だ”と言いたくなるような、昔のテレビの青春ドラマに出てきた中村雅俊のような、現代人が忘れかけている面倒見のいい人である。

「人工知能(AI)vs人間」の戦いがあちこちで起こっている。私は朝日新聞1月10日の天声人語の中の通訳袖川裕美(そでかわひろみ)さん(59)の記事に励まされた。『「話すこと聞くことは本能的で瞬発的な営み」。例えるならスケートに近いという。3回転半ジャンプが決まる日もあれば、いきなり尻もちの日もある。人工知能が様々な領域を脅かしつつあるが、「人類滅亡の日まで通訳の職は消えません」』とあった。世間にこうした人間くさい営みがある限り、私たちは私たちの仕事で誰かの役に立つことが出来る。私たちは「人間くさい」をもっと磨いて行きたい。(文責:中島正雄)

人間くさい

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