何でも道具から入る方だ。子どものころから文房具屋が好きだった。大学生になり渋谷に行って、東急ハンズを知ったときはディズニーランドに匹敵するくらいの楽しさだった。何を買うにもパンフレットを集めメーカーと性能を比較し調べた。文具にはじまり、釣り道具、ラジカセ、ギター、バイク、車、工具、カメラ、ビデオカメラ、ゴルフ、鞄に至るまで、納得のいくまで研究してから入手した。私のこういうところは、きっと父譲りだった。このような性格は家の女性からは好まれなかった。
私の仕事の道具はパソコンだ。パソコンについては、マネジメントゲームの西順一郎先生の教えの通り、少しでも軽いモノを選んで、どこに行くにも持ち歩いていた。私の一番気に入っているパソコンは、2台目に買ったIBM ThinkPad230Csで、デザイン、性能とも申し分なかった。ちょうどパソコン通信が流行り出したころで、私は寝る間も惜しんで、このThinkPadを使い込んだ。(今でも捨てずに所蔵している)DOS/VパソコンとWindowsの組合せでパソコンブームがはじまったころだった。
私が、当時から使い続けているソフトウエア(アプリ)に「秀丸(ひでまる)」がある。秀丸はテキストエディタというくくりのソフトで、本来はプログラムなどを作る(書く)ためのソフトだ。それは、ワープロの様に字を太くしたり、色をつけたり、大きくすることなどできない、プログラミングに必要最小限の機能だけを実装した文字を打つだけのソフトである。秀丸はいうなればメモソフトで、私はこれでいつも文章を書いている。秀丸で文章を書くと、なぜかスラスラと軽快に(筆が)進む。不思議なことに、ワープロソフトではそうは行かない。
残念ながら今の仕事の道具は、使い古して味が出てくるというわけではない。むしろ新しい方が、今まで出来なかったことが出来たり、時間のかかったことが早くなったりして仕事の質がよくなる。私は、新しいパソコンが出るたびに、仕事を理由に買い換えている。パソコンは変わっても秀丸だけは必ず入れて使っている。秀丸も大事な私の仕事の道具の一つなのだ。
アメリカでも日本でもMacを使うビジネスマンが増えている。なんでも、プレゼンテーションでMacを使っていると、エッジの効いたビジネスマンと見られるかららしい。そういう私もMacを使う様になっている。私が感じるMacのいいところは、キーボードが打ちやすいところにある。キーボードが打ちやすいと文章がスラスラ書ける、ということは、仕事がサクサク出来るわけなのだ。パソコンはキーボードの使いやすさで選ぶのがいい。
インターネットを使うようになってから、仕事のほとんどは電子メールとホームページで済んでしまう。インターネットにつながっていれば、どこでも仕事ができる。残念ながら、愛用の秀丸はWindows専用のため、Macでは使えなかった。そこでMacで使える秀丸を探すことになった。なかなか秀丸みたいに使いやすい道具はなかった。いいソフトというのは、人間の能力を引き出してくれる。そんな感じがしている。そして、ついに見つけた。
私が今持ち歩いているのはパソコンでなく、A4サイズの大きいiPad Pro。このiPadは、私がアメリカのコンピュータ博物館で見たパーソナルコンピュータの父と言われるアラン・ケイがダンボールで作った、理想のパソコン”ダイナブック”のモックアップと同じ大きさだった。
私は電車通勤で、しかも1日往復で4時間も電車に乗っている。4時間もあれば一仕事も二仕事もできる。インターネットにつながってさえいれば、どこでも仕事ができるから、私はiPadを選んだ。そして、パソコンは持ち歩かなくなった。iPadで書いた文章をクラウドに保存して、行った先のパソコンでクラウドから呼び出し仕事の続きをする。iPadに秀丸があれば言うことがないがそうはいかなかった。
テキストエディタ「iA Writer」を見つけた。iA Writerは文書を書く事だけに集中できるように作られたアプリだ。メーカー記事を読むと「文章が呼吸できるようにし、行から行へと視線が移りやすいように、iPhone、iPad、iMacの画面の大きさを自動的に取得して文字の大きさ、行高、枠幅と文字間の距離を調整し表示している」とあった。本当にiPadでもMacでも文字が美しい。書きたい!という気持ちにさせてくれるアプリだ。こうした気分を久しぶりに味わっている。自分を引き出してくれるいい道具に出会ったときは本当にうれしい。
パソコンの時代からブラウザの時代変わった。仕事の道具も変わっていく。こんな時代は、どうやら、新しい道具の方がよさそうだ。だから、私たちは道具が出来ることは道具に任せて、人間には人間しか出来ないことをするのがいいではないかと思う。(文責:中島正雄)

リブアランケイ的(イラスト 吉田稔美)

アラン・ケイがダンボールで作った、理想のパソコン”ダイナブック”のモックアップ
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