「名簿は郵便番号順にソートする」その意味を知ったとき私は思わず唸った。
半年前から、水曜日の夜、神保町の10坪の狭い事務所に、20~40代の若手経営者と意識の高いビジネスマンが5~6人、マイツールという日本のバブル期に流行ったパソコンのソフトの勉強会に来るようになった。私はもうこの先マイツールを使う人は増えないだろうと思っていて、マイツール教室をすることなんて考えていなかった。が、昨年末に突然現れた松本友氏の一言でマイツール教室をすることになった。マイツールは、エクセルのようでエクセルでないビジネスソフト。私はかつてアメリカ人から「マイツールのどこがいいのか。エクセルとの違いを説明しろ」と言われたがうまく説明できなかった。私は、未だにマイツールの良さを誰かに説明できないでいるが、マイツールはエクセルよりいいと強く思っている。それは、私はマイツールを使ってたくさん得をしてきたからだ。
マイツールはエクセルのように起動してすぐに表が用意されているわけではない。何もないスペースに自分で表を作って始める。私にとってマイツールのこの自由なスタートの仕方が好きなのだけれど、マイツールが今の時代まで流行らなかったのは、何かお膳立てされている方が使いやすいという人が多かったのかもしれない。
マイツール教室は、マネジメントゲームの開発者の西研究所・西順一郎先生が35年前に考案した“名簿作成教室“のプログラムをそのまま使って行う。内容はマイツールを起動して、名簿の表を作る。項目は社名、氏名、郵便番号、住所、電話番号、生年月日である。そこにみんなで20名程度の名簿を作る。今度は、出来上がった名簿の列の幅を変えたり、氏名を中央寄せしたり、数字の半角、全角を整えたりして自分好みに綺麗に直す。ここで休憩。このマイツールの名簿作成教室には、ビジネスのヒントがたくさん隠されている。
名簿が出来上がると、まず「年齢を出しなさい」という。コンピュータなので20名一気に計算して出す。次に「平均年齢を出しなさい」という。これもコンピュータにやらせる。そして「年齢順に並べ変えなさい」という。もちろんコンピュータにやらせる。
勘のいい方ならお気づきかもしれない。年齢を売上に変えたらどうだろうか。だから、この教室を何度か経験すると、明日から現場でマイツールが使えるように、また使いたくなるようになるわけなのだ。私は西順一郎先生のマイツール名簿作成教室に魅せられた一人だ。
私は今まで名簿管理にいろいろなツールを使ってきた。かつて、電子手帳とかPDAなどというジャンルで手のひらサイズのディバイスがあったけれど、スマートフォンの台頭であっという間に消えてしまった。シャープのザウルスや3comのパームパイロットが代表的なPDAになるが、それも使って名簿管理をしたが、ワクワクしなかった。ポケットPCというジャンルでカシオのカシオペアやHPのジョルナダも使ったが、これも満たされなかった。
名簿がデジタル化されることで便利なこともあった。それは検索ができることだ。手帳の中にある情報をキーワード検索できることは、ビジネスマンにとって画期的なことだ。ビジネスマンが「探し物」に費やす時間は、年間150時間と言われている。少しでも早く欲しい情報にたどり着くのはありがたい。社会人になりたてのころ、交換した名刺を専用のホルダーに入れていたが、これでは儲からないことがマイツールを使うようになってわかった。名刺ホルダーは検索の世界だった。何かあるとデータベースの中からその人を探す。誰でもやっていることだった。私は新しいディバイスが出るたびに買い、試したが、手元の残っているモノは一つもない。私は新しいディバイスを手にするたびに、マイツールの西式名簿に勝るものはないと思わされた。
スマートフォンが身の回りを一気に変えてしまった。そのスマホの名簿も私は使いにくいと思っている。私はスマホの名簿アプリに友人・知人の情報を入力する気にならない。第一にフォーマット(項目)が気に入らない。使わない項目が多いし、自分が欲しい項目を付け足すことができない。スマホでは自分オリジナルの美しい名簿を作ることができないのだ。さらに、勝手にあいうえお順に並び替えられてしまう。名簿というデータの集まり、つまり名簿データベースは、誰もが持っているデータベースだろう。西式で作られた美しい名簿は見ていてワクワクする。誰かに会いたくなる。連絡したくなる。あの人の近くにあの人もいるんだと思ったりもする。
ここからが本題。西順一郎先生は「名簿を郵便番号順に並べなさい」と今でも教える。35年前から変わっていない。そして、何かあったら郵便番号を見て、”検索しないで”探す。検索のように一瞬で見つかるわけではないが、その時間を差し引いても得をすることがあるのだ。その人をズバリ検索で探すと、その人だけが表示される。当たり前で、コンピュータならそうでないと困る。郵便番号で並べられた名簿でその人を見つけるとどうだろうか。もしその人が大阪に住んでいたら、その人の上に京都の友だちがいるし、その下には神戸のお客さまも目に入ってくる。大阪から京都も神戸も1時間足らずの距離だ。どうだろうか、ここからは人間が考える。スケジュールを調整して京都の友だちに会ってみようか、それとも、神戸のお客さまのところに表敬訪問しようかというアイディアが浮かぶはずだ。「そうだ、京都に行こう!」となる。これぞ、コンピュータは人に会うための道具といえないだろうか。
今、コンピュータの立ち位置はインターネットに変わろうとしている。インターネットというのは、今の言葉で言い換えると「クラウド」。インターネットはブログやツイート、インスタグラムなどばかりではない。インターネットは、自分のポケットや引き出しだと思えばどうだろうか。インターネットが使いやすくなって行くことで、身の回りのいろんなやり方が変わって来ている。新しもの好きな私は今、試していることがある。マイツールに入っている西式の名簿をクラウドに入れたらどうだろうか。名簿はどこにいても引き出せる。そしたら、もしかすると新しい人との会い方が発見できるかもしれない。コンピュータは人と会うための道具から、インターネットは人と会うための道具に変わって来ていると私は思う。こうして新しい出会いがあるたびに、マイツールで名簿作成を教えてくれた西順一郎先生に感謝している。(文責:中島正雄)

イラスト:吉田稔美
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