身近なコンピュータ(1)

松本さんから自社の生データが持ち込まれたのは、マイツールの勉強会をはじめてから一年になろうとしたころだった。松本さんは、この勉強会の言い出しっぺだったが、忙しことを理由に週一回の勉強会の時だけマイツールを触るという具合で、実務では使っていなかった。会社ではマイツール教室で得た知識をエクセルに置き換えて部下に指示して使っているようだった。教室では、一緒に勉強会をはじめた早馬(はやま)さんはマイツールを使えるようになっていた。こちらは会社の事情がありエクセルではあるけれど、マイツール的に一行一データのフォーマットで作られた表で管理する仕事も増えてきたと聞く。教室でいえば早馬さんは真面目な学級委員長に対し、松本さんは授業中おしゃべりをばかりしてやむなく一番前の席に座らされている生徒のようだった。その彼が本気になりかけたのだから、こっちとしてはしめたものだった。

松本さんから持ち込まれたデータは、自社の1か月分の売上のデータと商品マスタ(原価マスタ)の2つのファイルだった。松本さんの会社の主力商品は紙(洋紙)である。販売方法はインターネットからの注文がほとんどだった。売上や商品などの販売管理は『ネクストエンジン』というECショップ専用の業務管理ソフトでやっている。そして彼の今回の要望は、「(1)売上データをマイツールに取り込む、(2)不要な箇所を削除する、(3)原価マスタを裏画面に持ってくる、(4)SHD裏画面のコードと表のコードが同じなら原価金額を表に記載、(5)数量と原価をかけて合計を出す、(6)PQ・VQ・MQが出る。これに月間の想定Fを入れておけばグラフとf/m比率もグラフで出せるというわけですね」ということだった。

西順一郎先生からMGを学んでいる松本さんが、これがやりたくなるのは当然のことだった。持ち込まれたデータは、ネクストエンジンから出力されたカンマ区切りのテキスト形式のものだった。商品マスタのファイルを開いてみると、なんと3万行もあった。1か月分の売上データは、500行だったけれど列は72もあった。私は、こんな大きなデータをマイツールで処理するにはマイツール初級者には手強いと思った。松本さんの、そこをショートカットして行きたい気持ちも十分にわかるが、基礎をこつこつ重ねて行ってもかかる時間はそう変わらないということは経験者なら知っている。さてどうしようか。

松本さんの寛大な対応で、マイツール勉強会のメンバーに生データを配布して勉強会を実施することになった。まずは要望(1)の売上データをマイツールに取り込むからだった。マイツールがウィンドウズ版になって、表計算ソフトのエクセルとのやりとりが簡単にできるようにバージョンアップがあった。その機能は今でも重宝している。まずはそれを使ってみよう。松本さんの売上データをエクセルで開きデータを全て選択してコピーする。次に、マイツール起動して「CPAST」とタイプしてEnterキーを景気よく押す。

このEnterキーを景気よく押すことを西先生は「ドン!」と教えている。するとエクセルのデータが一瞬でマイツールにコピーされる。ちゃんとコピーされたかエクセルとマイツールの売上表を比べてみる。あまりに簡単すぎて、いまだにコンピュータを完全に信じていないところがどこかにあるのだ。比べてみるとエクセルには72あるはずの列がマイツールには22列しかコピーされなかった。何度やっても、誰がやっても同じだった。疑ってみるものだ。

マイツールには独特なところがいくつかある。その独特が社長でも使える所以でもあった。その一つは、一般的なパソコンでは情報はファイルという単位で管理されているが、マイツールはページで管理されている。それはマイツールの始まりは大学ノートだからなのだ。その発想は身近な大学ノートからきている。フロッピーディスクを使っていた時代、フロッピー1枚が100ページの大学ノートだった。ページ管理なので1ページの大きさに制限があるのだ。このページという考え方に違和感がある方の方が多いかもしれないが、実はこの考え方でコンピュータが身近になったユーザーも多かった。

これで出来なければ違うコマンドを使うしかなかった。そうマイツールはコマンドという命令で情報処理を進めて行く。マイツールに用意されてたコマンドは、だいた200ケくらいある。その中で私が知っているのは70ケくらいで、仕事に使うのは20ケくらいである。社長はマイツールしか使えないという2つめは、コマンドの仕様にあった。

コマンドというのはマイツールで計算したりプログラムを動かすときに使う命令を簡単にしたものだ、例えばページを開くコマンドは“R”で“読む”の“Read”の頭文字である。では保存はというと“W”である。これは書くの“Write”の頭文字。ではデータを順に並べ替えるコマンドはというと、並べ替えは英語で“Sort“なのでそのコマンドは”S”になる。西先生の今でのマイツール教室ではコマンドを”R”なら「アール」と呼ばせずに「リード」と言いなさい。”W”なら「ライト」、”S”なら「ソート」と言わせる。こうしてマイツールと会話するように仕事を進める。すると、いつもと流れの中でも「こうやったらどうだろうか」「この数字はどうして」などと新しい気づきがある。これが業務の改善につながるという。

どなたかに教わったことかもしれないが、私はもう一つコマンドに意味があると思っている。仕事でよく使うコマンドは1文字で、あまり使わないコマンドは4文字、5文字と文字数が多くなっていくのではないだろうか。その考えでいくと今回使ったコマンド「CPAST」は5文字もある。やはりこれは初心者教室では超手強かった。

こんなことにひるむことはない。次に使うコマンドを思いついている。マイツールのコマンドは日本が強かった時代に闘ったビジネスマン達の血と汗と涙の結晶なのだから。(つづく)(文責:中島正雄)

神保町マイツール教室のホワイトボード

神保町マイツール教室のホワイトボード

神保町マイツール教室でプログラミングする大人たち

神保町マイツール教室でプログラミングする大人たち