西順一郎先生がホワイトボードに「省脳」と書かれたときの爽快感を今も忘れない。
まるまる二日間みっちりのマネジメントゲーム研修締めの講義だった。欲しかったモノをようやく手に入れた気分だった。
省脳は、西先生がつくった造語だ。言葉の響き、字面、ユーモアといいさすが西先生、センスがいい。言葉の意味は「あまり細かいところにはこだわらず、ざっくりと物事をとらえ、ここぞという時に力を出す。そういう時に自分の脳を使うのだ」と私は理解した。
つまり、頭の中にある物事をパソコンに入れて忘れ、必要な時に思い出す。後で思い出しやすように、物事はデータベースに分解してパソコンに入れておく。約束事や電話番号、友だちの誕生日、記念日なども、自分の頭で覚えおかなくていい。それはパソコンの役目。物事をパソコンに入れ自分の脳ミソからは削除する。限りある脳ミソの領域はなるべく空けておいて、脳をもっと他のことに使うというのが省脳なのだ。例えば、隣にいる人をよろこばせることに使うとか。
西先生のスケジュール管理の手法は、このセオリーに成り立っている。スケジュールは5W1Hに分解して、パソコンのデータベースに入れ整理する。決まっているもの、決まっていないスケジュール、片っ端から入れる。スケジュール以外にも、その時になったら思い出したいことを入れる。そして、日付順にソート(並べ替え)して、自分は何をするのかを決めていく。こうして、データがたまってくると、パソコンが「今日はこうしなさい」「広島に行くにはこの飛行機で行って、折角広島まで行くのでだから井辻さんに会うのがいいですよ!電話番号はコレ」というようにパソコンが言ってくれるようになる。私も経験済みの本当の話である。
西式スケジュール管理を使った「カミさんの誕生日」の事例がある。カミさんの誕生日は決して忘れてはいけない記念日である。ポイントは、誕生プレゼントにある。去年と同じモノはもってのほか、「去年は何だった?」と聞くとシラけてしまう。まあ、自分が一年に一回試される日でもある。そこで西式スケジュール管理だ。毎年何をプレゼントしたかをパソコンのデータベースに入れておく。そして、日付順でソートして誕生日の3ヶ月前に表示されるようにしむける。出来事を見れば思い出す。頭が働き出す。去年はカバンをプレゼントしかたから、今年は靴にしようかと、そこは私の脳が考える。よろこんでくれるとうれしい。
私が得した省脳の事例がもう一つある。1994年に西研タヒチツアーに行った時、一緒に行った広島の井辻栄輔さんは、名簿の宛名を全部(はがきを出さない人の分も)タックシールに印刷して持って来られた。1,000人分くらいあったと思う。私はそれを見て、これは省脳だと思った。井辻さんは出張に行く前にパソコンの中にある名簿を一件一件見ながら、この人には出す、出さないとやっていたらどうだろうか。時間がもったいない。それだったら、タックシールに全部出して、移動中の空いている時間を利用して、シールの名前を見ながらハガキに宛名を貼っていく方が、はるかに効率がいい。この事例でもう一ついえるのは、パソコンの中の名前を見るのと、印刷された名前を見るのとでは、その人の思い出し方も違うのだ。そこでタックシールがもったいないと思っているようでは、この話は先へ進めない。省脳はパソコンの使い方の話だけではないのだ。
パソコンは人と会うための道具だと私は思っている。そのパソコンは「インターネット=クラウド」に置き換わろうとしている。クラウド以前はパソコンを持ち歩いて使ったが、以後はクラウドにつないで使う。つまり、データベースを持ち歩かないで使うことができる。更には、AIというのが出てきた。これからのトレンドになるだろう。コンピュータが人間と同様の知能を持つという。AIに言われたことをするようになる日も近いかもしれないが、カミさんの誕生日プレゼントは自分の脳ミソで選びたい。(文責:中島正雄)
井辻式宛名シール
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