LINEでつながる子どもたち

 聖⼦ちゃんがアイドルだったころ、私はスエットに スタジャンの下からパーカーのフードを出し、カセットウォークマンを聴きながら、ホンダのスクーター・ ⾚いタクトに乗って⼤学まで通っていた。そのころ、 週刊プレイボーイの巻頭の記事で、アメリカでマッキントッシュというパーソナルコンピュータが売り出されるということを知った。新しい友だちができると家 の電話番号を交換した。⼊⼿した電話番号は⼿帳に書き込み、どこへ⾏くにも持って⾏った。それは今だったら”LINEのID”だ。LINEのIDが電話番号ということだ。LINEのIDは、簡単に、瞬時に交換と記憶ができる。今の世の中は、⾯倒なことにはIT(インター ネット+スマホ)を使うのが鉄則のようだ。

 LINE(ライン、ちょっとアクセントが難しい。「ライ↑ン」)というのは、スマホのアプリで、ダウンロードして登録すると、スマホで無料で電話ができたり、無料でメッセージが送ることができる。破⽵の勢いでユーザー数が増えていて、最も多くの⼈が使っているメッセージアプリである。⼦どものケータイ料⾦は⾺⿅にならない。そこで、無料で電話ができるLINEアプリを⼊れて使う。だから、スマホを持っている⼦どもたちは、だいたいLINEができる。⼀度LINEでつながると、コミュニケーションはLINEになる。⼦どもと⼀番早く連絡を取る⼿段はLINEなのだ。LINEが使 えないと家族間でも仲間はずれになりかねない。

 そのころ彼⼥を作るのは、電話番号を聞くことからはじまった。どうやって聞き出すか、そればかり考えていた。電話番号を教えてくれたら、第⼀関⾨突破だった。そして、何回か会ううちに彼⼥の家に⾏けた ら、彼⼥にできる確率は更に⾼くなる。A型の私は彼⼥の家に⼊ったら、電話機が置いてある場所を確認した。⽞関や廊下だったらいいが、リビングなど家族が集まる部屋の中にあると不都合だった。彼⼥の家に電話をしたときオヤジが出る可能性がある。常に最悪な 状況をシミュレーションして、ダイアルを回すことがなかなか出来なかった。

 こうして、彼⼥と会う約束をするのも⼀苦労だった。今だったらどうだろう、彼⼥しか⾒ない、彼⼥に直通のスマートフォンに、LINEでメッセージを送るだけだ。会話もなければ、電話番号も覚えなくていい、オヤジもない。LINEのおかげで、 いくつものハードルを越えてようやく⼈と会えた時代なんてもう古くなってしまった。でもその価値はどうだろう。スマホ時代の⼦どもたちは、こうやって友だちと約束を交わしている。

 先⽇お客さまから「孫とLINEをしたいから教えて欲しい」という要望があった。⼀般的なコミュニケーションは電話からメール、そして、LINEに変わろうとしている。

 LINEと他のインターネットのメッセージアプリの違いは、家族や親友、彼⼥のように、⾃分のことをよく知っていて、気にかけてくれる「強いつながり」のコミュニケーションに使われていることだ。

 ⼀⽅で、”ツイッター”や”フェイスブック”などは、強 いつながりの他に、友だちの友だちや、会ったことのない⼈たち、私のことをよくは知らない⼈たちとの「ゆるやかなつながり」のコミュニケーションに使わ れている。

 わが家も例外でなく、⼦どもが⾼校⽣になるとスマートフォンを買い与えた。スマートフォンが無いと、友だちとコミュニケーションが出来ないというから仕⽅がない。確かに⼊学式直後のクラス会では、LINEのIDを交換し合った。部活でさえ集合時間や様々な指⽰が、ほぼ毎⽇LINEで⾏われていた。伝⾔ゲームのような電話連絡網など今は無いのだ。

 最近、インターネットとスマホを使って、なんでも 簡単に、⾃分の都合で済ませてしまう世の中になってきている気がする。テレビのニュースで「恋愛に積極的ではない若者が増えている」と⾔っていた。私はそのニュースに危うさを感じた。恋⼈のいない男⼥のおよそ4割が「恋⼈がほしくない」と回答。さらに、そ の最も多かった理由は「恋愛が⾯倒」というものだった。私はもしかして、その原因の⼀つにインターネッ トとスマホがあるのではないかと思った。

 「若者の〇〇離れ」のフレーズもよく⽿にする。「若者の⾞離れ」「若者のゴルフ離れ」「若者の雑誌離れ」他にももっとあるだろう。それらを⾒ると今の 若者にとって、どうも⾯倒なことばかりに思える。しかし、どれも私がかつて⼀番お⾦と時間を注ぎ込み、 ⼀⽣懸命やってきたコトばかりだ。私はそのフレーズ を⽿にして今度はショックだった。

 彼⼥が出来たら⾞が欲しくなるというのは昔の男⼦ の話なのだろうか。そのころ私は⺟を困らせ、中古のトヨタの⾚いスターレットを⼿に⼊れた。納⾞された 夜は、うれしくて⾞の中で寝てしまった。時間がある と⾞をいじっていた。アルバイト代は⾞とガソリン代 に消えた。そのときの後遺症で、今は⾞のネジ⼀本⾃ 分でしめない。私には、いま⽐べてもスマホより⾞の ⽅が⾯倒くさいけど、はるかに⾯⽩いと思う。

 それでも、”LINEは使わない”という選択肢はなさそうだ。インターネットという新しい道具を⼿に⼊れたことで、⼈とつながる機会は、劇的に増えた。「インターネットは⼈と会うための道具だ」。これから益々、 昔のような相⼿中⼼の”⼈間くさいコミュニケーション”が⼤切ではないだろうか。

(文責:中島正雄)